Earth Citizens SETI（ECSETI）とは「地球市民による SETI」を意味します。SETI (Search for Extraterrestrial Intelligence／地球外知的生命探査) とは、とくに電波を用いて、宇宙のどこかに存在するかもしれない知性の痕跡（Technosignature）を探索する、半世紀以上の歴史をもつ科学的探究の試みです。それはまた、この広大な宇宙の中で「私たちは孤独なのか？」「生命や知性の意味は何か？」「文明は持続可能なのか？」といった、人類にとっての根源的な問いかけへと接続します。
SETIはこれまで主に、プロの電波天文学者や研究機関によって担われてきましたが、それを市民の手に取り戻すための新しいアプローチが ECSETI です。
いつの日か宇宙文明と相対することがあるとすれば、そのとき地球文明を代表するのは、限られた専門家でも、特定の国家の為政者、権力者でもないはずです。かつてカール・セーガンは、“Who speaks for Earth?”（「誰が地球を代表して語るのか」）と問いかけました。その問いは今日もなお、私たちの前に厳然として存在し続けています。私たちは、この惑星文明の代表はすべての地球市民であるべきであり、宇宙知性の探究は科学者や特定の研究機関の仕事ではなく、地球市民が自らの意思で担うべき文明的営みだと考えます。
科学、そして SETI は本来、閉ざされた研究機関や特権的集団の所有物ではありません。宇宙への驚きや問い、探究心は、すべての人が生まれながらに備えもつ人間の根源的な力であり、科学とは人類が長い時間をかけて磨き上げてきた美しく強靭な知性の結晶です。そこから見出された諸法則は、私たちがいつの日か宇宙文明と相対するとき、文明間をつなぐ「宇宙共通語」となりうるものです。したがって、地球に生きる一人ひとりが、この惑星の知的生命体として科学を自由に実践し、その「宇宙共通語」を自らの意思で「語り」、また宇宙からの応答を「聴く」権利を有すると私たちは考えます。
ところが現実には、観測機器や研究論文など、科学の道具や知識、成果はいまだ専門家の独占状態にあります。「オープンサイエンス」「市民科学」といった言葉が掲げられながらも、多くの場合それらは専門家から市民への「施し」や「お裾分け」、あるいはプロ主導の研究の補助作業に市民を従事させる構造にとどまります。市民は自律した探究者ではなく、データ提供や画像分類といった作業を担う下請け労働者のように見えることさえあります。
私たちは、市民が自ら問いを立て、自らの手で観測機器やソフトウェアを開発し、データを解析することで、自ら考え、自ら語るための科学を取り戻したいと考えます。その根底にあるのは、しばしば誤解されがちな「ハッカー文化」†の精神です。自由な探究、創造的な問題解決、知識を開かれたかたちで共有し、権威に頼らず自律的に世界を改善していくという姿勢―これは Linux、Web、暗号技術など、現代文明の基盤を築いてきた市民の協働そのものです。ECSETI は、この自由で分散的な営みを宇宙探究へ拡張する試みです。
また、アマチュア無線の世界にもこれと同系統に連なる、国家や商業の枠に縛られず、市民が自らの手で絶えず技術的挑戦を行い、互いに助け合いながら電波の世界を開拓してきた長い伝統があります。そして、アマチュア無線家の中には、SETI を試みてきた多くの先人たちがいたことを私たちは決して忘れません。現在よりも遥かに限られた当時の設備や技術で、ときに後ろ指を指されつつも、宇宙へ耳を澄ませ続け、道を切り拓いたアマチュア-市民たち。彼らの挑戦的な探究に深い敬意を表します。私たちは、その精神を引き継ぎ、新しい技術を取り入れた新時代の地球市民による SETI として発展させていきます。
個人の庭に置かれた小さなアンテナからでも、世界の片隅の観測所からでも、私たちは宇宙への扉を開くことができます。かつては大学や専門家でしか不可能であった実験や観測が、技術の進歩により、自宅や PC で実現可能となりつつあります。これを足がかりに、私たちは受動的ではなく、能動的・主体的に科学を実践し、科学を真の意味で自由で開かれたものとしていきたいと考えています。
それらは以下の理念に基づいて行われます：
この理念に立脚し、ECSETI は「地球市民が地球文明を代表して宇宙と対話する」ための文化・実践・ネットワークづくりを進めていきます。
私たちが宇宙について学び、観測し、その広がりに心を向けることは、単なる知的営みではなく、文明そのものの意識を高めていく行為です。星々への憧れや畏怖の念は、やがて地球という文明が自らを超えてゆくための新しい精神的基盤となっていきます。
世界中の人々が宇宙へ意識を向け、地球という一つの惑星に生きる存在としての自覚を深めたとき、私たちはようやく「宇宙文明」として歩み始める準備を整えることができるのではないでしょうか。そのとき地球文明は、「銀河文明ネットワーク」―宇宙に遍在する無数の文明・知性が互いに学び合い、宇宙の深い調和をともに構成する想像を絶する広大な共同体―へと参入しうる成熟を迎えるかもしれません。
ECSETI は、その未来へ向かうための、小さくとも確かな第一歩でありたいと願います。
†「ハッカー文化」は不正行為を指すものではありません。本来のハッカーとは、自由な探究、創造的な問題解決、知識の共有、権威に依存しない自律的精神を重んじる技術者文化を意味します。